研究概要 |
遺伝情報発現の転写レベルでの制御の全容が、真核生物を中心として明らかになりつつあるが、翻訳レベルでの制御機構に関しては、その解明はいまだ十分とは言い難い。翻訳段階での制御は、転写とは異なり、短時間かつデリケートに行えるために、利点が多いと考えられ,今後多様な制御機構が明らかにされるものと予想される。本研究では、RNAに結合能を持つ蛋白質を、スクリーニングするシステムを構築することにより、翻訳レベルでの制御機構の全体像に迫ることに挑戦する。すでに大腸菌の精製した必須な成分から再構築した無細胞翻訳系(PURE SYSTEM)の開発に成功している。このPURE SYSTEMには、蛋白質やRNAなどを分解する成分が含まれないことから、今後ポリソームディスプレー法の主流となるものと期待されている。本研究ではPUREシステムを翻訳制御の研究における中心的なスクリーニングの系として確立することを目的とする。まず,PURE SYSTEMにより、cDNAのラブラリーから、蛋白質を合成させ、新生ペプチドの中から、mRNAに結合能を持つものを選抜する。あらかじめcDNAには、タグ配列を挿入しておき、このタグを利用して、ペプチドと結合したmRNAを選抜し、RT-PCR、PCRにより増幅する。このサイクルを繰り返すことで、自らのmRNAに結合する蛋白質の遺伝子のみが濃縮されていく。このことにより特異的なRNA-蛋白質相互作用をとらえることが可能となると期待される。自らのmRNAに結合することがすでに知られている大腸菌リボソーム蛋白質S15を用いて、本システムの有効性を検討した。S15のmRNAの5'に存在するS15結合部位であるシュウドノット構造を形成できない変異型と、天然型の遺伝子をT7-tagと融合したものを作製した。この両者のmRNAを共存させたサンプルをPUREシステムで翻訳させ、合成された蛋白質に結合するmRNAをT7抗体により回収した。その結果、変異型に比べて天然型のRNAが優先的に選抜されていることが示された。現在この濃縮効率の向上を検討しているが、本システムが自らmRNAの結合するペプチドを選抜するのに有効なことが示された。
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