研究概要 |
液晶に閾値以上の電界を印加すると,液晶分子の誘電異方性に基づいて配向変化(フレデリクス転移)が誘起される。現在普及している液晶パネルは,この原理に基づいて表示を行っている。近年,電界の代わりに光の光電場を利用した光フレデリクス転移に関する研究が行われており,液晶中に有機色素を微少量ドープすることにより光フレデリクス転移の閾値が大幅に減少することが見いだされた。本研究では,新規π共役チオフェン液晶を開発し,それらの光フレデリクス転移挙動について評価した結果,従来の非液晶性色素と比較してさらに照射光強度の閾値が2桁減少することを明らかにした。さらに,観察された液晶の光配向変化挙動について詳細な検討を行った。測定用サンプルは,垂直配向処理を施した液晶セル中にホスト液晶/チオフェン液晶混合物を封入することによって調製した。光配向変化挙動は,サンプルを二枚の直交した偏光板の間に置き,励起光照射によるプローブ光の透過光量変化を測定することにより評価した。その結果,励起光照射によって液晶分子の配向変化に伴う透過光量変化が観察された。また,z-scan法による測定結果も考え併せると,配向方向は励起光の偏光面と平行であることが明らかとなった。チオフェン液晶は異性化部位をもたないので,観察された配向変化挙動は色素分子と光電場の相互作用(選択励起)に基づく現象であることは明らかである。今後,これまでに得られた知見を分子設計にフィードバックし,光配向メカニズムを明らかにすることによって,液晶光配向の新しい手法を確立できる可能性がある。
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