研究概要 |
分子集合体の構築にはパイ-パイ相互作用や水素結合などの弱い相互作用が重要な役割を果たすことはよく知られている。申請者は我が国で誕生し,発展したきたトロポノイドの持つ水素結合能や金属錯体形成能に焦点を当て,これらを用いることによって高次集合体を構築することと,これらの集合体が発現する機能を明らかにすることを目的にした。 先ず,金属錯体形成能を利用して5-アルコキシトロポロンのCuやV=O錯体液晶を合成し,スメクチックB相やG相などの高次のスメクチック相を発現することを明らかにした。しかしながら,これらの相の転移温度が高温域に現れるので,本年度は新しい液晶として,分子の対称性を低下させて,転移温度を低下させることを目的に2-アミノトロポン誘導体を合成して目的を達成した。更に,窒素原子上にメチル基を導入して,ネマチック相やスメクチックA相などの柔らかい相を発現できた。また,トロポロンの5位に電子吸引性のカルボン酸基を持つトロポロン-5-カルボン酸をコアにするCu錯体を得て,液晶性を5-アルコキシトロポロン錯体や2-アミノトロポン誘導体と比較した。このように,2および5位の置換基や金属イオンによって性質が異なった。金属イオンによる性質の違いはCu錯体は平面4配位構造,Zn錯体は正4面体構造,V=O錯体は平方錐構造,Ni錯体は8面体構造をとることが知られているので,配位構造の差で説明できる。 次に,トロポン環をアルキレン鎖で繋いだ3種の2量体がトロポン環の相対的な方向によって性質が異なることを見い出した。また,2位にベンゾイルオキシ基やベンゾイルアミノ基を持つ5-シアノトロポン誘導体が,ベンゾイル基上のアルコキシ鎖の数によって,スメクチックA相やカラムナー相を発現した。 このように,トロポノイドの持つ水素結合能や金属錯形成能が液晶性発現に大きく寄与していることが明らかとなった。また,カラムナー相を発現するトロポノイドアミド体が種々の有機溶媒に対してゲル化能を示すことなど,液晶性発現とゲル化能に相関があることも判明した。
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