研究概要 |
希土類金属(RE)は非常に水素を吸収しやすく,もとのREの構造や電子物性と大きく異なる性質を持ち合わせたRE水素化物を形成することが知られている.REと強磁性遷移金属(TM)を組み合わせたTM/RE多層膜では,水素を吸収すると考えられるRE層のみならず,界面を通してTM層の特性も変化すると予想されるので,水素化により大きな特性変化が生じ,新しい機能性材料が創製されると期待できる.本研究では,REとして,非磁性軽希土類Laを,TMとして強磁性のFeとCoを用い,それらを組み合わせた多層膜を作製し,水素化前後での,多層膜の構造と磁性・伝導性について調べ,それらの違いを明らかにするとともに,これらの研究を通して新機能材料の創製を目指している. Fe/La多層膜では,水素雰囲気中でFe/La多層膜の電気抵抗は時間の経過とともに大きく増加したことから,多層膜が水素を吸収したことを確認した.FeとLaは非固溶系であり,Fe/La多層膜の小角XRDプロファイルには5次までの回折ピークが見られたことから,界面混合層のほとんど無い,良質な積層構造を有する試料の作製に成功した.水素化後に,回折ピークは低角側に移動しており,多層膜が膨張することが明らかとなった.膨張量は,La膜厚あたり19%に達した.バルクのLa水素化物の体積膨張量は,LaH_2で21%,LaH3で18%あり,それに匹敵する大きな膨張が膜面垂直方向の一方向に生じたことになる.これは基板拘束により,膜面内の膨張が抑制されたことが原因と考えられる.水素化によりFe/La多層膜の飽和磁化は増加した.上記の結果は,以前に報告したCo/La多層膜の飽和磁化の増加と似ている.しかし,Co/La多層膜では,界面にCo-La混合層が形成しており,それが不均化反応により分解したことが原因であるのに対し,Fe/La多層膜では,La水素化物の形成に伴う界面Fe原子の電子状態変化やFe層に体積膨張が誘起されたことによる,Fe層自身の特性変化が磁化増加の主因と考えられる.
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