研究概要 |
水素の貯蔵材料としてGraphiteのナノ化の研究が行われ、MA(機械的合金化法)によって吸蔵量が増加することが見出された(Orimo et al.:Appl.Phys.Letters,75(1999)3093)。Graphite中のCarbonと水素との反応がMA処理によって、どのように変化して行くかを電子顕微鏡を用いて、原子レベル構造および化学結合性の両面から研究することを目的とする。この目的のために、高分解電子顕微鏡像法および電子のEnergy損失分光法を利用する。前者は原子配列のポテンシャルの分布を求めるものであり、後者は結合に携わる価電子の電子状態を求めるものである。 使用した電子顕微鏡(TEM)は島根大学所有のJEM4000EXおよび広島県産業科学技術研究所所有のJEM3000Fである。前者はTop Entry型二軸傾斜試料Holderを装備した、高分解仕様の電子顕微鏡である。後者は電界放射型電子銃(FEG)を搭載した高分解Energy分散型X線分光EDS、透過電子のEnergy損失分光(EELS)および損失電子によるImagingの可能な分析電子顕微鏡である。 水素ガス中でのMA処理時間が、0,5,20,80時間のものを試料とした。 MA未処理試料では通常のGraphiteと同様なものであることを確認した。EELS-SpectrumのK-shell励起π^*結合にかかわるPeak(284cV)およびσ^*結合にかかわるPeak(291eV)が観測される。MA-5時間処理Graphiteにおいては、その格子像に多くの格子転位が見出される。特に0.34nmの間隔を持つc-面上の刃状転位が多く見出される。転位間の距離は5nm以下である。MA処理が十分な部分と不十分な部分との混合相であることが、格子像、電子回折図形、EELS-Spectrumいずれのデータからも示唆される。水素雰囲気中MA-20時間処理Graphiteでは均一にMA処理された試料である。観測された全ての格子像で、nano-size以上に広がった規則的な格子配列を示す領域は認められない。像はいわゆるAmorphous状態の像に酷似する。回折図形にはPeakは認められず、極度に散漫なhaloとし観測される。EELS-Spectrumにおいては、π^*結合ピークは明瞭に観察されるが、σ^*結合ピークは消滅し、巾の広いPeakとして観測される。このPeakはいわゆるAmorphous GraphiteのEELS-Spectrumと同様な形をしている。水素雰囲気中MA-80時間処理Graphiteの電子顕微鏡による観察結果はMA-20時間処理試料と本質的な違いはないが、なお、詳しい検討を必要とする。 以上の実験結果より、GraphiteのMA処理によるナノ化過程について検討した。最終的には1nm以下のGraphiteシートの集合となると考えられる。
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