研究概要 |
本年度は異なるアプローチからの3種類の四核錯体を新たに合成し,類似錯体との構造・磁性に関する比較検討を行った。1.ジカルボン酸架橋四核マンガン錯体の合成を目的とし,マンガン(II)イオンとジカルボン酸類との反応を検討したところ,この過程において環状四核構造を有する四核マンガン(II)錯体[Mn_4(OH)_4(bpy)_4](BF_4)_4(錯体1)が単離された。マンガンイオンはヒドロキソ基で架橋された8員環構造を構成し,さらに各マンガンイオンには2つのビピリジンが配位していた。隣接のビピリジンはπ-πスタッキングにより全体的な構造の安定化に寄与していた。2.アジピン酸(H_2adi)架橋四核銅(II)錯体[Cu_2(adi)(phen)_2(MeOH)_2]_2(NO_3)_4(錯体2)を合成し構造を決定した。錯体2はこれまで報告している類似錯体同様,フェナンスロリンがスタッキングした状態で銅(II)イオンに配位し,アジピン酸により二重架橋された四核構造を有していることが示された。銅イオンにはメタノール分子が軸配位し,五配位四角錐型構造をとっていた。二核ユニット内の銅(II)イオン間には,類似錯体よりも強い反強磁性的相互作用(-2J=111cm^<-1>)が働いていることが判った。3.三座配位子H_2L2-Hと塩化ニッケルを窒素雰囲気下で反応させ,緑色の四核ニッケル錯体[Ni_4(L2-H)_4(CH_3OH)_2](錯体3)を単離した。錯体3はアルコキソ酸素とニッケル(II)イオンによって形成されたキュバン型コア構造を有し,ニッケルイオンのうちの2つはメタノールが配位した六配位八面体型,残りの2つは五配位四角錐型をとっていた。キュバン構造の歪みは類似の銅錯体に比べると小さく,またニッケル1個あたりの有効磁気モーメントがμ_<eff>=3.21B.M.であることから,錯体3のニッケルイオン間には強磁性的相互作用の介在が予想される。
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