研究概要 |
生物の発生において卵の細胞質中の母性因子が後の発生過程で大きな役割を果たすことが知られている。モザイク卵として知られるホヤのゲノムは脊索動物型のゲノムの基本セットであると考えられ、卵への遺伝子の導入による機能解析の容易さとも相俟って、ゲノム理解のための格好のモデル生物であると思われる。本研究では卵内因子として母性mRNAに着目し、マボヤ卵内mRNAの塩基配列とその胚発生での発現、さらに各遺伝子産物の発生における機能を網羅的に解析し、母性の遺伝情報を総合的に理解しようとしている。1万弱の遺伝子が発現していると推測されている受精卵cDNAの両側約500bpずつの塩基配列の決定を行うと同時に、whole-mount in situハイブリダイゼーション法による各遺伝子の発現パターンの解析を行って、その空間的な発現パターンを画像データとして記録し、発現組織の違いをテキストデータとして蓄積した。以上の卵内mRNAに関する配列データ(約7,000クローン4,000遺伝子)と発現パターンの情報(3,500クローン)は、付随する他のデータとあわせてデータベース化し、インターネット上で公開した。MAGESTと名づけたこのデータベースに登録されたクローンには、卵後極への局在が見られるものが多数見つかっており、母性因子の作用機構解明の重要な手がかりとなると考えられる。さらにこの局在経路や機能について、分子生物学的、細胞生物学的、構造生物学的な各側面からのアプローチで解析を行っている。その結果、母性mRNAの後極への局在には二種類の経路が存在し、別々の細胞骨格構造に依存していること、その局在に必要な小さな特定配列がmRNAの3′UTRに存在することなどを見出した。
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