研究概要 |
核ゲノムにコードされたタンパク質は二枚の包膜を通過してストロマに達し,その後チラコイドに移行する。外包膜と内包膜にはTocとTic,チラコイドにはSecシステムとTATシステムという膜透過装置が存在する。安定な高次構造をとったタンパク質は,Secチャネルを介してチラコイド膜を通過できないが,葉緑体の包膜および,TATシステムを介してチラコイド膜を通過することができる。このことは(1)包膜のToc/Ticシステムやチラコイド膜のTATシステムには強力なunfolding活性があり,安定な高次構造であってもこれをほどくことができる,(2)チャネルが自在に広がることにより,タンパク質が安定な高次構造をとったまま膜透過できる,という二つの可能性を意味する。そこで二つの可能性を区別するために,包膜やチラコイド膜の膜透過チャネルの大きさを推定することを試みた。 チラコイド内腔タンパク質である33Kタンパク質前駆体をin vitroで合成し,C末端に様々な大きさのケイ光発色団や金クラスターを付加した。そして修飾前駆体のin vitroでの葉緑体への取り込み実験において,付加したケイ光発色団や金クラスターが膜を通過できるかどうかを調べた。13×10Åのfluoresceinを付加した前駆体及び16×13ÅのTexas Redを付加した前駆体は包膜を通過,さらにチラコイド膜を通過して内腔に達した。一方20Åの金クラスターを付加した前駆体は包膜透過効率が40〜60%に低下し,チラコイド膜は通過できなかった。したがって包膜のToc/Ticチャネルは直径が20Å前後,チラコイド膜のSecチャネルは直径が15A前後と考えられる。このことは,Toc/Ticシステムには強力なunfolding活性があり,安定な高次構造をとった前駆体は高次構造がほどかれることによってToc/Ticチャネルを通過することを意味している。
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