研究概要 |
これまでの研究により、 1)Mg-chelataseの3つの異なるサブユニット(H,I,D)のうち、最も大きなサブユニットであるHサブユニット(ChlHまたはGun5と呼ぶ)がプラスチドシグナル伝達に関わること、 2)Iサブユニット(ChlI)はプラスチドシグナル伝達に関わらないこと、が明かとなった。本年度は、残るDサブユニットがこのシグナル伝達系に関わるか調べるため、かずさDNA研究所との共同研究でシロイヌナズナタグラインからDサブユニット遺伝子(CHLD)の破壊株を検索した。その結果、破壊株と思われる2ラインの候補(chlD-1およびchlD-2)が得られた。chlD-1はCHLD遺伝子の第13エクソンにT-DNAが挿入されており、またchlD-2では第5エクソンの末端にT-DNAが挿入され、それ以降が大きく欠失していた(欠失の範囲は未同定)。chlD-1変異をホモに持つ個体はアルビノ表現型を示し、スクロース非存在下では生育不能であった。このアルビノ個体について、δ-アミノレブリン酸および2,2′-dipyridyl存在下でのMg-Protoporphyrin IXの蓄積量を調べると、野生型株に比べて著しく低下していた。従って、光合成細菌やオオムギで知られるように、CHLD遺伝子産物がMg-chelatase活性に必須であることが分かった。一方、chlD-2変異体はホモ個体が得られず、ヘテロ個体がつけた胚を観察したところ、約1/4の割合で胚の発達が著しく阻害されており、これらの胚は成熟種子を形成しなかった。chlD-2変異体はCHLD遺伝子の大部分と、その3′側に続くゲノム領域を欠失しているため、その領域に胚発生致死表現型の原因となる遺伝子が含まれている可能性が高い。 chlD-1変異をホモに持つアルビノ個体についてプラスチドシグナル伝達系について検討したが、現在のところ正常に機能することを示唆するデータが得られている。
|