研究概要 |
脊椎動物の顎の発生と進化を理解するにあたり、ニワトリ胚の頭部において、顎骨弓の間葉がどのように特異化されるのかを実験的に検索した。顎骨弓にその一部が流入する三叉神経堤細胞が頭部腹側に達する以前から、腹側外胚葉に成長因子をコードするFgf8遺伝子が1対のドメインとして発現することがわかった。これは後の顎骨弓に相当する領域である。この前後には別の成長因子であるBMP4が発現し、ともに三叉神経堤細胞に対して顎骨弓のパターニングを行っていることが推察された。そこで異所的にFGF8リコンビナントをビーズにしみこませ、ニワトリ初期胚に与えることによって、FGF8の下流標的遺伝子であるホメオボックス遺伝子Barx1の発現領域が拡大すると同時に、顎骨弓のアイデンティティも拡大していることが確認できた。DiIの微量注入を行うことで、これが確かに間葉のトランスフォーメーションであることもわかった。すなわち、外胚葉に存在する成長因子の分布は、三叉神経堤細胞から顎骨弓と顎前領域を区別する、プレパターンとなっているらしい。顎の進化の理解ではしたがって、FGF8,BMP4、とその下流遺伝子であるDlx1(Barx1),Msx1の発現パターンが重要な鍵となると考えられた。そこで、無顎類カワヤツメにおいてこれら遺伝子相同物の単離を試みた。現在のところ、Dlx1,Bmp4の発現を確認したが、それは一見ヤツメウナギのアンモシーテス幼生の上唇と下唇が、上下顎それぞれに相同であることを支持するように思われた。しかし、間葉の分布の形態的比較や、神経堤細胞群それぞれの由来などから、上に述べたシグナリング相互作用が両者の動物において異なった細胞集団において機能していることが示唆された。これが正しいとすれば、顎の進化においては細胞間相互作用の位置的シフト(ヘテロトピー)が関わっていたらしいということになる。
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