研究概要 |
出芽酵母のヒストン脱アセチル化酵素Rpd3pは,DNA結合蛋白質Ume6pと複合体を形成して,減数分裂特異的遺伝子群(IME2,HOP1など)の転写抑制に関与している.本研究の目的は,ヒストン脱アセチル化による転写抑制機構を明らかにすることである.まず,in vivo footprinting法によってアクチベーター蛋白質(Hap1p,Hap2/3/5p,Abf1p)の結合を調べたところ,Ume6p-Rpd3pによって抑制されているプロモーターにおいても結合していることが明らかになった.この結果は,ヒストンアセチル化-脱アセチル化によるヌクレオソームの構造変化によって転写因子のアクセッシビリティーが変化するという,従来提唱されてきたモデルでは説明できない.次に,アクチベーターHap1pのDNA結合ドメインとTBP(TATA box結合蛋白)との融合蛋白質(HAP1-TBP)を発現する株を作成して,Ume6p-Rpd3pによる転写抑制を調べた.野生型の株では,Hap1pの結合部位を挿入したHOP1-lacZの発現は,Ume6p-Rpd3pによって約100倍抑制されるが,HAP1-TBPを発現させた株では約2-3倍しか抑制されなかった.このとき,HAP1-TBPはHOP1プロモーターに結合していることが示された.従って,TBPを人為的にリクルートすることによってUme6p-Rpd3pによる転写抑制が解除された.以上の結果から,ヒストン脱アセチル化はTBPの結合を阻害する,またはRNAポリメラーゼのリクルートを阻害する,というモデルを提唱した.Rpd3pのホモログは酵母から哺乳類にまで保存されていることから,本研究の成果は,真核生物に普遍的な転写抑制機構として捉えることができると期待される.
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