研究概要 |
淡水中に棲み原生動物の繊毛虫に属するハルテリア(Halteria glandinella)が、まわりからの刺激に応答して後進の泳ぎをする時その泳ぎ速度は、秒速にして細胞サイズ(20μm)の150倍にも達することを見つけた。これほどの速度で移動する生物は他には知られていない。速い泳ぎ速度を生む原因を調べたところ、前進時と後進時の繊毛打頻度が非常に高くそれぞれ90-100Hz,200-250Hzであった。この値はこれまでに知られている他の繊毛、鞭毛虫の前進、後進時の繊毛打頻度がそれぞれ20-30Hz,40-80Hzであることからするとはるかに大きな値である。まずこれほど速い繊毛打頻度が何らかの繊毛の構造に起因するのではないかと考え、繊毛構造を電子顕微鏡により観察した。ハルテリアの繊毛は30-40本ほどの繊毛がシート状に束ねられており、束を構成する繊毛は通常の繊毛に見られるような9+2システム構造を持つことが分かった。またハルテリアの細胞膜を界面活性剤で破壊した後、モーター蛋白のエネルギー源となるATPを加えて再活性化モデルを作成し、その繊毛打頻度を測定した。加えるATP濃度とCa^<2+>濃度をいろいろに変えた時、繊毛打頻度は低Ca^<2+>濃度(μM以下)で55Hz、高Ca^<2+>濃度(μM以上)では100Hz程度であった。この結果は、繊毛機能がモデル作成の過程で部分的に損なわれた可能性があるものの、繊毛内のCa^<2+>濃度の変動により繊毛打頻度が調節されていることを示している。すなわちハルテリアが刺激を受けた時、繊毛膜上にあるCa^<2+>チャネルからのCa^<2+>流入により繊毛内のCa^<2+>濃度が上昇しこれがモーター蛋白の調節系に働き繊毛打頻度が上昇すると考えられる。さらに繊毛軸糸のすべり速度、ダイニンの抽出を試みたが、必要な量の繊毛を集めることができず今後の課題として残されている
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