研究概要 |
紀伊半島の筋萎縮性側索硬化症/パーキンソン痴呆複合(Kii ALS/PDC)はGuam島のALS/PDCと酷似した疾患で、紀伊半島の穂原地区で現在も発生している。大脳、脳幹に多数の神経原線維(NFT)が出現し、老人斑を伴わないことが病理学的特徴である。高い家族性発症率、臨床症状、病理所見でFTDP-17と共通するが、タウ遺伝子変異は認められない。Kii ALS/PDCの病的タウ蛋白の研究は、アルツハイマー病(AD)などtauopathyの病態を考えるうえでも重要である.この疾患の脳組織のタウ蛋白を生化学的に分析した. 4例のKii ALS/PDC患者の凍結脳からsarkosyl不溶性画分(病的タウ)と可溶性画分(正常タウ)を調整した.リン酸化依存性抗タウ抗体(PS199,PS199/202,PS262,PS231/T235,PS396,PS403,PS412,PS422),非依存性抗タウ抗体tau-C,tau-N)を用いた不溶性画分のウエスタンブロットと免疫組織染色、また、脱リン酸化処理不溶性・可溶性画分のウエスタンブロットを検討した。この疾患の不溶性タウはADのPHFタウと同様に過剰にリン酸化されており、抗体への反応からはADのPHFタウとリン酸化部位に相違点はないと考えられた.また,AD同様にtriplet bandを示し、6種のタウisoformから構成されていた.蛋白レベルでタウ蛋白は6isoformが同じ割合で発現していた.不溶性画分のネガティブ染色電顕観察ではADのPaired helical filamentと同様に80nm周期のくびれをもつtwisted filamentがみられた. この疾患の病的タウ蛋白は、ADとは異なる機序で神経細胞変性に関与している可能性が考えられたが,今回の分析では、ADのPHFタウとの生化学的相違は確認されなかった.
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