研究概要 |
転写制御機構を理解するためには、転写活性化ドメイン(AD)とその標的分子の間に成立する蛋白質間相互作用の実体を明らかにする必要がある。われわれはTFIIDサブユニットであるyTAF145/dTAF230のN末端にTBPと極めて強く結合し、その機能を阻害する活性領域(TAND)を同定し、TANDが役割分担の異なる二個の小サブドメイン(TAND1,TAND2)から構成されること、TAND1はADと多くの機能的な共通点を持つことなどを明らかにしてきた。またすでにIkuraらにより、ショウジョウバエ由来のdTAND1がTATAボックスの分子擬態を利用してTBPに結合していることが明らかにされている。その後の詳細な解析からdTAND1が二個のyTAND1相当領域を内包する可能性が示されたため、それぞれについてTBPとの複合体形成を試みたが、yTAND2との融合蛋白質のin vitroにおけるTBP結合活性はいずれも極めて低いものであった。そこで今回dTAND1-dTAND2間に本来挿入されているspacer領域(78-115aa)の機能に新たに注目し、in vivo及びin vitroにおいて種々の解析を行った。その結果、(1)spacer領域の付加はin vivoにおいて野生型orキメラ型TANDを持つyTAF145蛋白質全長の発現を抑制すること、(2)spacer領域をC端側に融合することにより転写活性化ドメインの活性が顕著に低下すること、(3)spacer領域の挿入によりdTANDIN(or C)-yTAND2融合蛋白質のTBP結合能がわずかながら増大することなどが明らかとなった。以上の結果は、spacer領域が単なるリンカーではなく、少なくともショウジョウバエのTFIIDにおいてはTAND1,TAND2と同様にTBPと可逆的に結合する第三のサブドメインとして機能していることを強く示唆している。
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