研究概要 |
AIDS発症SHIV-89.6P(以下89.6P)と非発症SHIV,NM-3rN(NM-3rN)の急性期の感染経過について,サル個体レベルでSIVmac239(239)と比較検討した結果,以下の1〜3が明らかとなった。 1、個体レベルでの病理学的検索法の確立:239感染をモデルとして,生検/剖検による全身の経時的な検索系を確立し,併せてウイルス産生細胞(VPC)同定用プローブを作成した。 2、89.6PとNM-3rNの急性期感染経過の比較:89.6Pでは感染後2週までに,胸腺皮質に著明な細胞変性が出現し,12週までに高度の萎縮を認めた。239感染とは異なり,末梢リンパ組織では著しい活性化の過程を経ることなく,主としてアポトーシスにより著明な細胞脱落を来した。またIn situハイブリダイゼーションではVPCは主として胸腺髄質に検出された。89.6P感染を特徴づける胸腺病変は,ヒト乳幼児において急性ストレス萎縮として知られる病態の組織像に極めて類似していた。ストレス萎縮は,高度の外傷,化学療法,敗血症などによって惹起され,視床下部-下垂体-副腎系の関与が想定されている。我々の研究では,89.6P感染の病態には,免疫-神経-内分泌系を含む全身的な反応が関与している可能性が強く示唆され,更なる解析が必要と考えられた(以上,投稿準備中)。一方,NM-3rNでは軽度の慢性持続性のリンパ節腫脹に移行し,その状態に止まって発症には至らないことが明らかとなった。 3、生ワクチン候補ウイルスによる89.6P発症防御とその病理所見の検討:NM-3rNから調節遺伝子を除いた生ワクチン候補による89.6Pの感染防御実験では,完全防御は出来なかったが,末梢リンパ球減少および組織破壊は著しく低減され,AIDS発症は見られなかった。この発症抑制機序についても更に病理学的な検討が必要と考えられた。
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