研究概要 |
神経系と血球系はともに大きく機能の異なる多様な細胞からなる。これら多様な細胞はそれぞれの系の幹細胞から形成されると考えられている。実際幹細胞として働きうる細胞が哺乳類神経系・血球系で分離されているが、細胞系譜、細胞自律的機構と微小環境との相互作用、制御因子の実体など、分化機構に関する多くの重要な点が明らかでない。ショウジョウバエの神経系と血球系はそれぞれ2種類の細胞からなる。すなわち神経系はニューロンとグリア、血球系はマクロファージおよびメラニンを産生して免疫応答を行うクリスタル細胞からそれぞれ構成される。いずれの系においても,2種類の細胞のうち一方でgcm-motif転写因子が発現する.すなわちグリアではgcmが、マクロファージではgcmおよび新たなgcm-motif転写因子gcm2が発現する.これらの遺伝子の強制発現はニューロンをグリアヘ,クリスタル細胞をマクロファージへ分化転換させる.一方欠失変異体では逆方向の分化転換が観察された.従って神経系と血球系では細胞種間の分化決定機構の主要部分が共通であるということができる。いずれの系においても、個々の細胞は2種類の細胞のどちらにもなりうる能力を持って産み出される。分化を制御する様々なシグナルはGcm-motif転写因子のOn/Offに集約し、このOn/Offによって分化決定がなされるというモデルでほぼ現象を説明できる。このことからGcm-motif転写因子はこれら二つの系に共通な細胞種決定因子として機能していると言うことができる。Gcm-motif転写因子によって制御される下流因子には二つの系で共通なものが存在するため、これら二つの系の細胞種決定では共通な分子ネットワークが機能していると思われる。
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