研究概要 |
オレフィン類の触媒的不斉カルボニル化において、反応に関与する電子の挙動を明らかにし、その結果をさらに効率、選択性の高い反応の設計にフィードバックすることを目的とし、特に、リン配位子の電子状態に着目して研究を進め、下記の成果を得た。 実験的に証明されていた非対称型二座ホスフィンホスファイト配位子(R,S)-BINAPHOSの対称型配位子には見られない特性を理論的に解明した。まず、パラジウム触媒を用いるプロピレンと一酸化炭素の不斉交互共重合反応における(R,S)-BINAPHOS配位子の二つの配位部分の役割分担について、アルキル基がホスファイトのトランス位にきて初めて一酸化炭素の転位挿入が進行すること、プロピレンの挿入はホスフィンのシス位で進行しておりプロピレンの面選択にはホスフィン部分のフェニル基の影響が最も大きいと考えられることの2点を明らかにした。また、プロピレンに代えてスチレンを用いると反応機構が異なる可能性が実験的に示唆され、この点に関しても、特にスチレンのベンゼン環π電子の影響を中心に検討した。その結果、スチレン挿入の向きについて、電子的な要因としてはパラジウムはフェニル基のα位を好むのに対し、(R,S)-BINAPHOSのかさ高さという立体的な要因によって、重合反応はパラジウが末端炭素に結合する形で進行しており、このことが本触媒系の特殊な反応性の原因であることが明らかにした。 これまでに、分光学的な手法で「見る」構造決定法に加え、本研究では、これら見えるものの間の「見えない」変換過程を明らかにできた。
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