研究概要 |
本研究は過酸化水素に関わる植物の複合的な防御機構の解明を目的とし、主としてジャガイモの自己誘導型内因性エリシターについて研究を行った。我々は数年前、代表的ナス科植物であるジャガイモ塊茎スライスに穴をくり抜き、過酸化水素水を噴霧し、室温6時間後の水抽出液がブランク実験による抽出液にくらべ格段にファイトアレキシン生成能(エリシター活性)を有することを見い出した。この実験条件をもとに大量のジャガイモを用いてエリシター活性部分を分離、精製し、便宜上E-1、E-2と称する内因性エリシターの単離(電気泳動上単一バンド)に成功した。これは自己誘導型内因性エリシターの最初の単離である。これらはそれぞれ酸性糖であり、エリシター活性はE-1が17μg/mlであり、E-2が5μg/mlであった。Sephadex G-75によるデキストラン標準との比較から、分子量はE-1が約9,200、E-2が約50,000と見積もられた。ピリジルアミノ化法による中性糖部分の組成比は前者がGal,Ara,Rha=2:3:4、後者はGal,Ara,Rha,Glu=8:4:1:3であり、前者が後者由来のものではないことが示唆された(後者の酸性糖部分は未解析)。またこれらに含まれる金属イオンを精査した所、E-1にはCaイオンが4当量含まれガラクツロン酸によって高次構造をとりながらエリシター活性を示すことが明らかになった。E-2は、E-1とは異なり、原子吸光ならびにICP(誘導結合プラズマ)-MSにより、CaおよびMgイオンの存在が確認され、それらの存在比はいずれもエリシターに対し0.5当量しか含まれていない。また、E-1においてCaイオンを除去できた同一条件(エリシターをH^+型に変えてキレート樹脂イオン交換カラムにて溶出後)の下で、E-2におけるCaおよびMgイオンの存在量に変化はなかった。これらの結果はジャガイモ塊茎のファイトアレキシン生成を誘発する内因性エリシターとして、E-1とE-2ではエリシター活性を発現する高次構造が根本的に異なるものであることを示唆している。
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