研究概要 |
植物疫病菌Phytophthora sp.の有性生殖では、異型株A1株とA2株が出会うことにより互いが分泌するαホルモンの働きで自家不和合性が解除され接合が起こり卵胞子が形成される。本研究ではαホルモンの化学構造を明らかにすることを目的とし、以下の成果が得られた。 (1)生物検定条件の確立:タバコ疫病菌P.nicotianaのA1,A2株の各種抽出物をペーパーディスクに含ませ、寒天上で培養中のA2,A1株にそれぞれ接触させて培養した結果、A1株のアセトン抽出物がA2株に対し顕著な卵胞子形成活性(α1ホルモン活性)を示した。また、検定に用いるA2株、抽出に用いるA1株はいづれも4日間の培養で卵胞子形成活性が最高になることが分った。(2)α1ホルモンの精製:A1株の培養物74.65L(シャーレ3733枚分)をアセトン抽出し、抽出物を酢酸エチルと水で分配した。酢酸エチル画分をシリカゲル、ODSカラムで順次分離後、HPLCで精製すると2つの活性画分が得られ、高活性画分をさらにHPLCで精製し、約0.1mgのα1ホルモンを得ることに成功した。この物質は12.4ng/diskで卵胞子形成活性を示した。(3)α1ホルモンの構造解析:LC/MS分析の結果、分子量を492と決定し、少なくとも2つの水酸基の存在が示された。^1H NMRスペクトルの解析では高磁場領域に多くのシグナルの存在が示され、全体の約2割に相当する部分構造が推定された。 今後は、さらなる抽出によりサンプルを確保しα1ホルモンの構造解析を進やるとともに、A2株が分泌しA1株に卵胞子形成を誘導するα2ホルモンの分離を試みる。
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