研究概要 |
黄色植物の一系統群である褐藻カヤモノリScytoshiphon lomentariaの遊走細胞を材料として、(1)鞭毛の大量分画法の開発と(2)走行性反応の光受容体の候補である鞭毛局在の未知の緑色蛍光物質の分析を行った。室蘭と相生で採集でした藻体を成熟誘導(暗黒下で数日間半乾燥状態におく)後に光照射下で冷海水に浸し遊走細胞を放出させた。細胞を1Mソルビトールを含む緩衝液に懸濁し,バイアルミキサーで鞭毛を細胞から脱離させ,遠心分画で鞭毛を分画した。遊走細胞の鞭毛部位の顕微鏡下でのUV励起蛍光スペクトルと鞭毛分画の蛍光スペクトルは,500nm付近に蛍光極大を示した。この結果は、ユーグレナ植物ミドリムシEuglena gracilis鞭毛基部の蛍光極大波長(530nm)とは異なり、褐藻の光受容色素としてミドリムシの光受容色素(FAD)とは異なるフラビン化合物が機能していることが示された。現在、色素分子の化学構造をNMRとMSで解析するため、試料の大量調整を進めている。次に、鞭毛粗分画の構成タンパク質をSDS電気泳動で分離し、チューブリン以外のタンパク質主要バンド7本についてアミノ酸配列の解析を行った。高分子量(110kDと85kD)の2本については約20アミノ酸の配列が明らかになり、鞭毛を構成する新規タンパク質であった。現在、抗体を用いた遊走細胞局在性の解析と遺伝子のクローニングを進めている。褐藻の光受容体タンパク質の候補となる50Kda以下のタンパク質バンドはN末端がブロックされており、現在までのところ未同定のままである。しかし、ミドリムシの緑色蛍光タンパク質と相同性のあるタンパク質は検出されず、黄色植物では新規のタンパク質が走光性光受容体として機能する可能性が非常に高い。今後,緑色蛍光タンパク質の精製度を上げながら、鞭毛局在の未知蛍光物質の構成成分(タンパク質と色素分子)の同定を進める。
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