研究概要 |
生物には様々な色の変化を起こすものがある。それらの中で、以下の2つの課題について研究した。 1.ヒカゲシビレタケ(Pslocybe argentipes)の変色:青色化合物の構造決定・生成機構解明 ヒカゲシビレタケは、傷をつけ空気に触れさせると青色に変色する。このキノコは幻覚を引き起こすキノコであり、その原因物質であるシロシン、シロシビンが青色化合物の元であるが、青色化合物の構造については何もわかっていない。そこで、シロシンを化学合成し、FeCl3で酸化したところ、青色化合物が得られた。これをイオン交換後濃縮し、シリカゲルカラムにより分取したところ、別の青色化合物が得られた。これは、MS測定の結果、シロシン由来のポリマーの混合物であることがわかった。一方、天然のヒカゲシビレタケをアンモニア水で抽出したところ、青緑色溶液が得られた。これは濃縮すると緑色固体に変化した。また、濃縮しないでゲルろ過したところ、青色物質はゲルに残った。これらの結果から、シロシンからの酸化で得られた青色化合物と、天然から得られたそれとは現時点では異なる化合物であると判明した。 2.カバ(Hippopotamus amphibius)の「赤い血の汗」の色素成分の構造研究 動物には様々な色のついた汗をかく種がある。カバは赤い色の汗をかく。これは無色の汗が分泌されたあとに赤い血のような色に変色し、その後褐色物質に変化するものである。この赤色色素がカバを紫外線や菌の感染から守っていると言われているが、詳細はわかっていない。上野動物園の協力により、カバの顔と背中からガーゼで汗を採取した。無色の汗が数分で赤色に変色した。この極めて不安定な赤色物質をガーゼから熱湯で抽出した。この色素も1.と同様に濃縮によって重合してしまうため、抽出した水溶液は約4分の1までの濃縮にとどめた。これをゲルろ過し、褐色溶液、オレンジ色溶液、赤色溶液に分離した。赤色溶液は、イオン交換により精製した。NMRスペクトル(D2O)の結果、6〜7ppmに3Hのビークが観測されたが、不安定なため誘導体に変換した。すなわち、赤色水溶液にNa2S2O4リン酸バッファー溶液を加え還元した。無色になった溶液を塩酸で酸性にしたのち、酢酸エチルで抽出した。有機相にジアゾメタンを加えその後濃縮した。さらに、シリル化(TBSOTf,2,6-lutidine)したのち、シリカゲルTLCにより分取した。得られたサンプルについて、MS、NMR(benzene-d6)、13C NMRを測定した。その結果、この誘導体は分子量は602であり、OMe基3個、OTBS基2個、芳香族水素3個、メチレン水素1個(2H)、メチン水素1個、フェノール性水酸基1個が存在することがわかった。なお、13C NMRは、微量ゆえ正確には判断できなかった。
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