研究概要 |
動物界で最も原始的な神経系を有すると考えられている腔腸動物のヒドラにおいてはコリン作動性ニューロンやアミン作動性ニューロンは見いだされず、すべてがペプチドニューロンであるという研究報告から、腔腸動物はペプチドニューロンの宝庫であり、また,ペプチドニューロンが脊椎動物脳内の各種ニューロンの起源である可能性もある。本研究計画では、このような特徴を持つ腔腸動物を材料として申請者らが用いてきた最先端技術を用い、ペプチドニューロンの根元的な機能について、特に、少数ニューロンからなる微小脳において情報処理・貯蔵の基礎過程を構成しているシナプス伝達とその可塑性に注目して解明することを目的とした。シナプス前後両部の同時記録及び分子生理学的手法の応用ができるクラゲの双方向性シナプスを用いて、特に、ニューロンの異なる部位において脊椎動物中枢神経系に見られるような速い神経伝達と、ペプチド分泌に見られるような遅い開口放出による神経修飾が使い分けられているかどうかに注目して、シナプス伝達メカニズムを電気生理学的・分子生理学的に解析するため,まず実験系を模索するところから開始した。最初に,日本産ユウレイクラゲ(Cyanea nozakii)およびミズクラゲ(Aurelia aurita)を用い,福岡女子大学小泉博士より提供された5種のヒドラ神経ペプチドに対する抗体を用いて免疫組織化学を行った。その結果,ヒドラのRFamide peptide familyに対する抗体RIV#2に対して免疫陽性なペプチドニューロンが両種において主にsubumbrellaの組織中に見いだされた。そこで,これらのニューロンからの電気生理学的記録を行うためのプレパレーションの開発を行った。上皮を取り除く処理をした標本を作製したところ何種かの神経細胞が露出できたので,それらからのパッチクランプ記録を行った。また,コラゲナーゼ処理により解離細胞を作成し,それらから神経回路網を再形成させて電気生理学的記録を行う試みも開始している。
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