研究概要 |
脳の重要な感覚処理系である嗅覚系について、嗅覚系一次感覚野である触角葉と、二次感覚野であるキノコ体・側角を結ぶ投射神経回路を詳しく解析した。まず、触角葉と側角を結ぶ経路として従来知られていたiACT、mACT、oACT(inner,middle,outer antennocerebral tract)の3経路に加え、新たにvACT(ventral ACT)を同定した。これら4経路で投射する介在神経細胞が、触角葉でどのような投射をするかを解析した結果、iACTのほぼ全てとmACTの一部の投射神経は、触角葉の単位構造である糸球体単位のuniglomerularな投射パターンを示すのに対し、mACTの残りとvACT、oACTの投射神経は、糸球体の境界を越えたmultiglomerularな投射パターンを示した。iACTの側枝は、ACT線維束に近いzone1、calyx中心部のzone2、Kenyon線維の束に近いzone3の3つの領域に分類できた。またvACTの線維は全てzone1のみに投射していた。iACTの線維は更に側角まで伸びて終末するが、その終末の樹状分岐は、前から見るとdorsal、equatorial,、ventralの3つに分類できた。それぞれの分類を上から見ると、dorsalはD1、D2の2つ、equatorialはEの1つ、ventralはV1、V2、V3の3つ、合計6つのzoneに分類できることが分かった。D1、D2に終末する投射線維は、キノコ体ではzone3に側枝を伸ばすものばかりであった、またV1、V2、V3に終末するものは、キノコ体ではzone1と2に側枝を伸ばしていた。このように側角とキノコ体の投射には、一定の相関が観察された。これら特徴的な線維の投射・終末パターンは、成虫が羽化する前の後期蛹の脳において、すでに完成しており、成虫の成熟にともなう構造変化は見られなかった。
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