研究概要 |
熱受容体VR1,VRL-1がヘテロマーを形成する可能性の検討と冷刺激受容体遺伝子のクローニングを目標に研究を進めてきた。VR1,VRL-1はヘテロマーを形成しないことが明らかとなり、後者は未だ単離に至っていない(平成14年3月に米国のグループから遺伝子単離の報告がNature誌になされた)。 細胞外からのみ作用することが知られていたプロトンによるVR1活性化のEC_<50>がおよそpH5.4であることから、プロトンのVR1に対する作用には細胞外ドメインの酸性アミノ酸が関与することが推定された。そこで、それらの酸性アミノ酸を中性もしくは塩基性アミノ酸に変える点変異体を作製して電気生理学的な解析を行うことによって、第5,6膜貫通領域間の600番目のグルタミン酸がプロトンによるカプサイシン活性化電流、熱活性化電流の制御に、634番目のグルタミン酸がプロトンによるVR1の活性化に関与することが明らかとなった。この酸性アミノ酸の点変異によって活性化閾値が10度も低下した。 また、感作物質もしくは発痛物質として作用するATPがGqにcoupleする代謝型受容体活性化からPLC・PKC活性化を介してVR1活性を増大させることが明らかとなった。ATPはVR1の有効刺激であるカプサイシンやプロトン(低濃度)によって惹起された電流を著しく増大させるのみならず、熱による活性化温度閾値を43度から30-35度へと大きく変化させた。これは、ATPが存在すれば体温以下でもVR1が活性化して痛みを惹起することを示し、VR1が代謝型受容体とともに全く新しい疼痛発生システムを形成していることがわかった。カプサイシン受容体は生体において痛み刺激となる43度で活性するのにならず、組織傷害に伴う感覚神経の環境変化からその活性化温度を変化させて体温で侵害刺激を監視しているのではないかと考えられる。
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