研究概要 |
ヒトは外界の対象を必要に応じて種々のイメージとして捉え,柔軟な思考を行っている.入来らはサルが熊手の使用に熟達するとその身体イメージが熊手の先端まで伸びることを示唆する神経活動を報告した(1996).さらに日原らは,サルは1本の熊手を用いて餌を取ることを学習するには多数の試行を要するが,そのサルはより遠くの餌を取るために長い熊手を短い熊手で取ることを示した.すなわち,1本の熊手を使えるサルは,2本の熊手が与えられると短い熊手で長い熊手を手元に引き寄せ,長い熊手に持ち換えてより遠くの餌を取ったのである. 本研究は,この2本の熊手使用を,身体イメージの拡張とは逆に餌のイメージの熊手への拡張として捉え,サルの行動過程を強化学習理論に基づき以下のようにモデル化した.(1)サルの脳内に熊手の報酬期待値を表わす関数があると仮定した.(2)この関数値を計算する「道具評価系」をActor-Criticモデルに新しく導入した. このモデルでサルの1本の熊手使用と2本の熊手使用の学習曲線を定量的に再現した.また,モデル構造に於けるこの系の位置からこの系が前頭前野にあることを予測した.この予測を裏付ける実験データとして道具使用中のサルのfMRI画像で前頭前野が強く活動していることが示された. 今後の課題は,まず,モデルを用いて道具使用中のサルの脳神経活動を予測する.次に,道具評価系は前頭前野にあると予測されるので,この領野での単一神経細胞活動を計測し熊手の報酬期待値関数に対応した活動が存在するかを検証することである.
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