研究概要 |
ヒトの症例や動物の破壊実験より,海馬は,空間的および非空間的記憶の形成と一定期間の保持の過程に重要な役割を果たすことが示唆されている.げっ歯類の海馬から脳波を記録すると,歩行時やREM睡眠中に周期性徐波活動(RSA)が出現するが,最近,RSAの位相とニューロンのインパルス放電とのタイミングが,場所のコード化やその表現に重要な役割を果たしているとの仮説が提唱されている.しかし,従来ヒトを含めて霊長類では明瞭な海馬RSAは記録できないと言われており,海馬脳波とニューロン活動との相関についての知見はほとんどなかった.これに対して昨年度,1頭のサルを用いて,実験室内を自由に歩き回ることを訓練し,さらにMRI画像情報に基づいて脳波用電極を正確に海馬内に埋め込み活動を記録したところ,サルでも自由行動下(歩行時)では歩行開始時にRSAが出現すること,また,ラットのRSAと比較して周波数が低いこと(3-6Hz)などを明らかにすることができた. そこで本年度は,平成12年度の記録実験を継続するとともに,さらに1頭のサルを用いて,実験室内の床上やトレッドミル上での歩行を訓練したのち(トレッドミルの使用により歩行開始や歩行速度のコントロールが可能となる),脳波用電極に加えてとニューロン活動用の電極も,平成12年度と同様,MRI画像情報に基づいて正確に海馬内に埋め込み,自由行動下における海馬脳波とニューロン活動を同時記録した.現在,まだ記録実験は継続して行っているが,脳波活動に関しては,平成12年度と同様の結果が確認できた.また,ニューロン活動に関しては,これまで5個のニューロンから単一活動を記録できたが,まだ動物の行動(居場所,歩行速度,移動方向など)や海馬脳波との間に明瞭な相関を有するニューロンは見られていない.
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