研究概要 |
脳は,どのくらいの時間スケールで動いている機械だろうか.例えば,視覚野V1の個々のニューロンの発火タイミングが,もし±1msの範囲でずれたら,我々の「見る」機能は,どのような影響を受けるだろうか.±10msではどうか.このような神経システムの時間解像度を求めることは直接的にはできないが,本研究では,その答えを実験データから示唆する手法を考え,サルが認知課題をおこなっている最中に,多重電極を用いて記録した一次運動野のニューロン活動を解析した.各ニューロンは時々刻々変化するアナログ情報(興奮すべき確率)に従って活動していると考えよう.もし発火のタイミングが重要であれば,この興奮すべき確率は発火する瞬間に急激に変化する.一方,発火の頻度が重要であれば,この確率は,ある時間幅でみると,ほとんど変化しない.本研究では,このアナログ情報が,どのくらいの速さで変化しているか「2個のニューロンの同時発火の回数」,「4個のスパイクから構成される全ての時空間発火パターンのうち,最も出現回数が多いパターンの出現回数」などの統計量に着目し,解析をおこなった.その結果,9msec以内で興奮すべき確率が変化していることを示唆する結果を得た.従来のスパイク相関解析では,「興奮すべき確率」の時間的変化は,各試行で同一であるという(厳しい)前提条件のもと統計的な解析,例えば2個のニューロ活動の独立性の検定などが行なわれている.そのような条件を必要としない.本手法の有効性はヘブライ大学のAbeles教授らにより支持されたが,動物の行動との結び付きは不明であり今後の課題である.
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