研究概要 |
本研究は、1)大腸菌をACR毒素感受化させる宿主ミトコンドリア(mt)ゲノム遺伝子ACRSの産物とACR毒素との分子応答は宿主感受化への分子スイッチであるかどうか、2)カンキツのストレス・防御応答で、各種抵抗性遺伝子の発現誘導における、宿主特異的毒素・細胞壁分解酵素の重要性を検証した。Alternaria alternata rough lemon pathotypeにより生産されるACR毒素は、宿主特異的毒性をもち、その作用機構はmtでの酸化的リン酸化の脱共役と補因子の漏出によるTCA回路の停止である。先に、大腸菌をACR毒素に感受化させるカンキツmt遺伝子(ACRS)を単離し、本遺伝子を含む約2600bpのラフレモンDNA断片領域の塩基配列を決定した。本遺伝子は、tRNA-Alaのイントロン部分に位置し、またACR毒素感受性、抵抗性カンキツの双方のmtゲノム中に存在する。しかしながら、ACR毒素抵抗性品種のmtでは本遺伝子転写物がプロセッシングを受けて破壊されることにより、ペプチドが翻訳されていないことが明らかとなった。一方、感受性品種のmtでは、本遺伝子の転写物がプロセッシング等の修飾を受ず、翻訳された産物はSDS-抵抗性のpore-formingタイプのACR毒素レセプターであることが明らかとなった。カンキツの病害抵抗性に関与するPGIP,LOX,CHS,PAL,HPL,AOS,FAD7,PDLの遺伝子はいずれも、菌接種後30分以内に発現誘導がかかり、菌の組織への侵入開始以前にシグナル伝達を伴う何らかの分子応答があることが明らかとなった。そこで、菌胞子がカンキツ細胞へ付着した直後から分泌されることが知られる宿主特異的毒素・細胞壁分解酵素に着目し、標的破壊法によりACT毒素生産、endoPG生産欠損菌を作出した。これら欠損株をラフレモン葉に接種し、防御反応関連遺伝子の発現誘導へどのような影響がでるかを検定した結果、これらの因子の欠損株はいずれも、抵抗性関連遺伝子の初期発現誘導を著しく阻害し、宿主特異的毒素・細胞壁分解酵素のいずれも抵抗性誘導に重要な役割をもつことが示唆された。
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