研究概要 |
精製したタンパク質性エリシター(クリプトゲイン)はタバコ培養細胞に過敏感細胞死を誘導した。この過敏感細胞死は、低濃度の陰イオンチャネル阻害剤(DIDS)により完全に阻害され、La^<3+>(Ca^<2+>チャネル阻害剤)により部分的に阻害されたことから、イオンチャネルを介したイオンフラックスが過敏感細胞死シグナル伝達に関与する可能性が示唆された。そこで種々のイオン濃度を非破壊的に同時に計測することが可能な、イオン選択性電極マルチチャネル同時計測システムを構築した。これを用いて解析した結果、このエリシター処理により、約2分半程度のラグタイムの後、長時間継続する二相性のH^+の流入が誘導されることが明らかとなった。こうしたタイムコースや変化のパターンは、生体防御反応が誘導されるものの明確な細胞死が観察されないオリゴ糖エリシターによって誘導される一過性のイオンフラックスと明確に異なり、そのシグナル伝達における意義や分子機構の解明は重要な課題と考えられた。 細胞死誘導の最初期において同時にCl^-,K^+の流出等のイオンフラックスも観察された。さらにCa^<2+>感受性発光タンパク質(エクオリン)遺伝子を導入した細胞を用いて細胞質のCa^<2+>変化を解析した結果、H^+の流入に先立ち約1分程度のラグタイムの後、二相性の細胞質のCa^<2+>濃度上昇が誘導されることが明らかとなった。 細胞膜を介したH^+フラックスは、DIDS,La^<3+>,BAPTA(Ca^<2+>キレート剤),K-252a(プロテインキナーゼ阻害剤)により阻害された。このようにタバコ培養細胞における過敏感細胞死情報伝達系では、細胞膜上のCa^<2+>チャネル、陰イオンチャネル等のイオンチャネルカスケードが重要な役割を果たし、その制御にはタンパク質のリン酸化が関与していることが示唆されたので、イオンフラックスの分子機構やその調節機構の解明に着手している。
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