研究概要 |
申請者らは、嗅細胞における嗅覚受容体遺伝子の相互排他的な発現、及びそれに依存して生じる嗅球への位置特異的な軸索投射の分子機構を解明する為、マウス14番染色体上に隣接して存在する、3つの相同性の高い嗅覚受容体遺伝子(MOR28-MOR10-MOR83)を同定し、それらの基礎的な解析を行ってきた(Tsuboi,et al.,J.Neurosci.,19,8409-8418,1999)。本研究において我々は、長年の懸案であったトランスジェニックマウスにおける嗅覚受容体遺伝子の発現系の確立を試み、YAC(yeast artificial chromosome)ベクターを用いる事により世界に先駆けて成功した。このトランスジェニックマウスにおいては、460kbのYAC DNA上の嗅覚受容体遺伝子MOR28はlacZ遺伝子により標識されている。一方、外来性のMOR28遺伝子を発現する細胞と区別する為、ノックインの手法を用いて内在性のMOR28遺伝子がGFP遺伝子により標識されたマウスを作製した。これらを交配したマウスを解析した結果、(1)外来性及び内在性のMOR28遺伝子は個々の嗅細胞で相互排他的に発現すること、(2)それぞれの遺伝子を発現する嗅細胞の投射先は隣接しているが異なる糸球であること、(3)新生及び再生の過程において、嗅神経がそれぞれに対応する独立した糸球を形成する為には、一定数以上の細胞が必要であることが明らかとなった。次に、lacZとGFPで別々に標識した2種類のMOR28遺伝子の発現を、トランスジェニック系で解析したところ、それぞれが異なる嗅細胞で相互排他的に発現することが示された。これは、同一の染色体部位に複数個導入された同じMOR28トランスジーンの間でも、相互排他的発現の見られることを実験的に示した最初の例として注目された(Reed,Nature Neurosci.,3,638-639,2000)。 申請者らはまた、上述したノックインマウスの嗅上皮からGFP蛍光を指標にMOR28発現嗅細胞を単離し、その核に関してRNA-DNA FISH(fluorescent in situ hybridization)法を用いて解析することにより、これ迄提唱されていた嗅覚受容体遺伝子のmonoallelicな発現を、単一細胞レベルで初めて証明した。更に、嗅細胞の嗅球への軸索投射に関して、ノックインマウスとトランスジェニックマウスを用いて解析した結果、嗅覚受容体遺伝子の染色体上での位置、遺伝的多型、遺伝子標識の種類及び有無などが、軸索投射を規定するパラメーターになり得ることが示された。
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