研究概要 |
従来より、CREBはノックアウトマウスやショウジョウバエの実験から長期記憶の形成に必須の分子であると予想されている。ところが、こうした単純な条件付け学習実験系では、ヒトの言語認識や言語学習といった高次の機能を解析することは困難である。そこで、ヒト言語学習のモデル実験系として有望なzebra finchを材料として、その歌学習機構における転写因子CREBの役割を解明することにした。我々はzebra finchの歌中枢、特にhigher vocal center(HVC)やarea XにCREBが発現していることをanti-CREBモノクローナル抗体による免疫染色により見い出し、zebra finch脳よりCREBcDNAを単離した。zebra finchのCREB(以下zCREBと呼ぶ)はrat δ CREBと97%以上の相同性を示し、リン酸化部位のアミノ酸配列も種を超えて保存されていた。そこで、我々がリン酸化CREBを特異的に認識する抗体(Ab5322)を用いて、CREBが活性化される部位や条件を調べたところ、zebra finchの歌を聞かせると、HVCからarea Xに投射する神経細胞でその活性化が起こることを見い出した。このCREB活性化は、単なる雑音やカナリヤの歌では惹起されないため、言語認識のモデルになる可能性がある。ほ乳類の海馬錐体細胞では、グルタミン酸受容体、特にNMDA型受容体とAMPA/KA受容体を介してL型カルシウムチャンネルから流入するカルシウムにより活性化されるカルモジュリン依存性蛋白リン酸化酵素(CaM kinase)によってCREBは活性化されることが証明されている。zebra finchのグルタミン酸受容体はNR2B以外はクローニングされていないので我々が各subtypeの発現をRT-PCRと各subtype特異抗体を使って調べてみたところ、zebra finchの脳でNR1,NR2A,NR2C,NR2D,GluR1,GluR2,GluR3,GluR4,mGluR1,mGluR2,mGluR4の発現が認められ、各グルタミン酸受容体のアミノ酸配列はほ乳類の相同分子と77-99%の高い相同性を示した。HVCではNR1,GluR2/3,mGluR1が発現しているが、area Xに投射する神経細胞にはNR1とGluR2/3がCREBと2重染色され共存が証明された。グルタミン酸投与により惹起されるHVCでのCREBのリン酸化はAP5あるいはCNQXの単独投与により阻害できるので、zebra finchのHVCでもほ乳類の海馬錐体細胞と同様に、NMDA型受容体とAMPA/KA受容体の両方の活性化がCREBのリン酸化に必要で、NR1とGluR2/3の相同分子がその役割を担っているものと思われる。
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