研究概要 |
発生過程の神経細胞や培養神経細胞の神経突起の先端には成長円錐が観察される。神経成長円錐は細胞運動性が高く、神経突起伸長に必要な認識物質の識別を行い伸長方向を決定すると考えられている。我々の研究(Tatsumi et al.,1995;Soeda et.,1997;Tatsumi et al.,1999a;Tatsumi et al.,1999b)を含めこれまでの研究から、神経成長円錐部は伝達物質の放出が可能であること、また標的細胞に出会うとシナプス前終末に変化することが知られている。また我々の研究から、成長円錐部と標的細胞あるいは細胞の接着基質の間で神経興奮に伴なって、神経成長円錐との間で接着形成がおきる事がわかってきた。 本研究ではヒヨコの内耳の前庭神経節細胞を培養し、神経突起に形成される成長円錐に急性分離された有毛細胞を接近させ、これら細胞間での情報伝達の仕組みを解明することである。これまでの予備的な研究から、有毛細胞を電気的に興奮させるとその近傍の神経成長円錐の細胞内カルシウムイオン濃度の上昇が見られることがわかった。すなわち、有毛細胞から前庭神経節細胞への情報伝達を培養条件下で再現できることがわかった。 平成12年度の研究は、この情報伝達がグルタミン酸を伝達物質とていることを明らかにした。具体的には、ケイジドグルタミン酸を使い、神経成長円錐部にグルタミン酸受容体が早い時期から用意されていることを明らかにする。これまでの予備的実験から、前庭神経節細胞がケイジドグルタミン酸の光分解により生じるグルタミン酸に応答することを観察している。ここで、受容体の特性や阻害薬による受容体の分類を行い、その結果、non-NMDAおよびNMDA型の受容体が、情報伝達に関っていることがわかった。もう一つの研究では、内耳の前庭神経節細胞の成長円錐に有毛細胞を接近させ、有毛細胞を電気的に興奮させる。それと同時に神経成長円錐の細胞内カルシウムイオン濃度測定をおこなって、神経成長円錐部のカルシウムイオン濃度の上昇が、有毛細胞から放出されたグルタミン酸によるものであることが明らかとなった。
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