研究概要 |
線虫は遺伝学・分子生物学が応用でき、神経系をはじめ全ての細胞の発生・分化が詳細に記載されている有用な生物学的実験系である。従って、細胞レベルでの発生異常または分化異常のミュータントが簡単にスクリーニングできる。線虫には分化系譜が判明しているニューロンより構成される神経系が存在し、それぞれのニューロンは決められた発生時期に軸索を特定のパスに伸展させ特定のターゲット組織を神経支配することが知られている。遺伝学的な検索の結果、適切な軸索の伸展および適切なターゲットへのガイダンスには10以上の遺伝子の働きが必要であることが知られている。DCC(Deleted Colorectal cancer)は線虫のUnc-40の相同遺伝子であることが知られている。CRAP-62はUnc-44の相同遺伝子で、Unc-44遺伝子産物はAnkyrin関連タンパクであることが判明している。 線虫Unc-51は軸策の伸展異常が詳細に記載されたミュータントであるが、その単離された遺伝子の1次構造から新規ファミリーのセリン・スレオニンキナーゼをコードしていることが判明している。しかし、これまで脊椎動物での役割に関してはその相同遺伝子の存在が明らかでなかったために不明であった。我々は、マウスおよびヒトのcDNAライブラリーよりUnc-51キナーゼ相同遺伝子の単離を試みた。その結果、ヒト、マウスのゲノムよりUnc-51.1およびUnc-51.2と2つの相同遺伝子を同定した(Biochem Biophys Res Commun246,222-227.,1998;Genomics 51,76-85,1998)。また、線虫への遺伝子導入実験から、ヒトおよびマウスの相同遺伝子がUnc-51線虫の軸策伸展異常をレスキューできることを明らかとした(Neuron24,833-846,1999;Oncogene,18,5850-5859,1999)。
|