本研究は線虫の翻訳されないRNA分子を組織的に網羅し(非翻訳RNA分子種のカタログ化)、それらの機能解析を通して非翻訳RNA分子が複雑な遺伝子ネットワークの中でどのように他の機能分子と関わりあって発生、行動、老化といった生命現象に関与しているか理解することを目的とする。2000年度は、線虫を用いた実験系の研究室への導入と非翻訳RNA分子種をカタログ化する系の構築を目標とした。 細胞内に存在する非翻訳RNA分子種の多くはtRNAやrRNAであり、これらはすでに線虫のゲノム全塩基配列が決定された段階でコンピューターを用いた相同性検索によりリストアップされている。これら以外の非翻訳RNA分子は線虫の場合16種類しか報告されていない。酵母で70種類以上の非翻訳RNA遺伝子が報告されているのに比べるとこの数は極端に少なく、まだ発見されていない非翻訳RNA分子種が多く残っていることを示唆する。RNAの場合塩基配列に違いが見られても、その高次構造が保持されていれば機能を保つことは可能である。またRNA遺伝子はタンパク質遺伝子のようにDNA配列でORFをとるようなことから予測することができない。これらのことがゲノムの塩基配列を完全に解読してもその中から非翻訳RNAをコードする領域を見つけ出すことを困難にしている。本研究ではこの点を克服するため、細胞から抽出したRNAを生化学的に分け、同定する方法をとる。線虫の粗RNA抽出物を2-プロパノール沈殿法により約1000nt以上、1000-100nt、500-100nt、100-50nt、100nt以下の大きさに分画し、それぞれを変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけたところ、各RNA画分に少なくとも十数本のバンドが検出された。このうち100-1000nt画分の17本のバンドについて現在塩基配列の決定を行っている。
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