真核生物の鞭毛繊毛は、細胞運動器官及び細胞外情報の物理的・化学的受容器として重要な役割を果たしている。本研究では、発生や形態形成においてもその重要性が指摘されている軸糸を構成する全蛋白質の記述と、cDNA情報、蛋白質一次構造情報、二次元電気泳動スポットの特定化、軸糸内局在情報を全て網羅したデータベースの作製を目指して行った。脊索動物カタユウレイボヤの精巣cDNAの網羅的解析(EST解析;citsプロジェクト)と、精子鞭毛の軸糸蛋白質に対する抗血清を用いた軸糸cDNAのスクリーニング(CiAxプロジェクト)という2つの方法により研究を進めた。citsプロジェクトに関しては、京都大学佐藤研究室、遺伝研シーケンスセンターの協力を得て、本年度7220個の5′-EST、4927個の3′-ESTを得た。3′-クラスタリングにより得られたクラスターのうち、約半数は精巣特異的であった。5′-ESTのBLAST検索により、既知蛋白質と有為な相同性を示したcDNAの中で、特にユビキチン系、小胞輸送系、免疫/血液凝固系に関与する蛋白質が多いことが分かった。これらは精子先体形成、先体反応、精子一卵相互作用に関与していると予想される。一方、CiAxプロジェクトで現在までに78クローン得られているが、これらの中にはHSP40やB7など軸糸蛋白質としては未同定のもの、さらにはヒト、ショウジョウバエ、線虫などで記載されていながら機能が未知の蛋白質が多く見い出された。以上のcDNA情報と蛋白質の生理機能を有機的にリンクさせる試みの一つとして、精子活性化に伴い変化する蛋白質を二次元電気泳動により調べた結果、等電点が変化する16種の蛋白質を同定し、そのうち2種類はcitsプロジェクトで得られたクローンに由来することが明かとなった。
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