ヒトの全ゲノムの塩基配列概要が公表されたことにより、最も近縁のチンパンジーのゲノムとの比較研究が、ヒトの生物学的特性や進化を探るために、いよいよ具体的に推進されるべき時期にきた。私どもは、今後のチンパンジー・ゲノム科学推進のための基盤を構築することをこの1年間の目的とした。具体的には、国内での連携的研究のため方策の検討と、遺伝子ならびに染色体に関するヒトとの比較データの蓄積の2項目に重点を置いて研究した。 1.国内で研究用のチンパンジーを保有する施設との協力体制を確立し、研究試料採取ならびに管理についての指針を検討すした。 2.進化における染色体再配列部位の解析のモデルとして、チンパンジー型2染色体の直列融合により生じたヒト2番染色体q13領域の詳細な解析を行った。 3.三和化学研究所熊本霊長類センター(肥田宗友)、東大医科学研究所菅野研究室ならびに感染症研究所遺伝子資源室(橋本雄之室長)との共同で、オリゴキャッピング法を用いてチンパンジーの皮膚組織より完全長を高率に含むcDNAライブラリーを作製した。ランダムに単離した約1850クローンについて、5'末端側からワンパスシークエンスを行い、ESTs(expressed sequence tags)を得た。そしてクラスタリングならびにホモロジー検索を行ない解析した。これらのデータベースは、2001年4月より公開予定である。 ヒトと相同の遺伝子についてNCBI ntデータ(ヒト)に対して比較した結果、ホモロジーはUTRで98.6%、CDRで99.4%であった。mRNAの構造の種差が示唆されるものについては全長シークエンシングを行い、ギャップや組換えを検出した。新規遺伝子のESTsと考えられるクローンも見い出したので、全長cDNAの解析を進めている。これらの遺伝子の機能解析を進めることにより、両種間の違いが解明できることを期待している。
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