生物には概日リズムとよばれる、行動や生化学的活動を支配する24時間に近い周期を持つ活動リズムが見い出される。これは、生物個体及び細胞に内因性の体内時計が存在するためである。この体内時計は、遺伝的に決定された生物種固有のリズムを刻むことができ、環境の周期的変化(特に光サイクル)に対して同調することができる。哺乳類の場合、概日時計中枢は脳視床下部の視交叉上核(SCN)に存在し、SCNの日周性を伴った神経活動出力、或いは、液性因子の分泌により末梢組織を支配して概日リズムを形成している。概日時計中枢を構成する時計遺伝子や、末梢組織のリズムの同調をはかる分子を明らかにするためには、リズム変異体の検索が最も有効である。ところが、極めて多数の動物個体の活動リズムや薬剤投与効果の計測は、時間と経費の上からも現実的ではない。即ち、個体を損なわずにかつ中枢と末梢組織の計時情報を細胞レベルで簡便に計測する方法の開発が必要である。そこで、本研究では、煩雑な個体レベルでの行動解析を、細胞レベルまで還元することで検索を簡便化かつ大規模化するために、Per1プロモータとluciferase融合遺伝子のトランスジェニック動物由来の細胞を用いることにした。得られたPer1::luc動物のSCNでは、luciferase活性が約2ヶ月間日周振動した。また、いくつかの末梢組織でもこの日周リズムは2-6周期保たれた。本年度の目標としては、(1)Per1::luc動物のbiopsyにより得られた末梢組織の計時機能計測定法の確立、及び(2)多チャンネル型発光検出装置の開発研究を挙げた。この内、(1)についてはいくつかの末梢組織においてその方法を確立し、また(2)については既にその設計を完了し現在試作機を製作中である。
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