ショウジョウバエの翅は細胞系譜を異にする発生コンパートメントからなる成虫原基から形成される。成虫原基はこのコンパートメントを枠組みとする2つのシステムの2重焼きによりパターンが形成される。すなわち(1)engrailed(en)やapterous遺伝子の働きによるコンパートメントのアイデンティティーを決定している機構と(2)コンパートメントの境界に誘導されるモルフォゲンが位置情報を供給する機構である。本研究では、新たな遺伝子を同定することにより、モデルシステムにおける形態形成メカニズムの理解を目指す。 酵母の配列特異的組み換え酵素FLPの認識配列FRTを2番染色体の右腕の動原体付近に持つ染色体を用意し、EMSにより変異を導入した。変異系統を、FRTとFLPを持つ系統に交配することにより、翅に高効率で体細胞クローンを形成し、その表現型を解析した。体細胞クローンは翅の毛の変異であるshaでマークされている。現在までに約2500系統のスクリーニングを終えいくつかの変異を得た。ヘッジホッグシグナル、DppシグナルあるいはNotchシグナル伝達系の因子の変異と思われるものが含まれていた。さらに既知のシグナル伝達系では簡単に説明できないような変異も得られている。shaマーカーを用いることによって、実体顕微鏡下で容易にクローンを識別でき、数多くの変異のスクリーニングが可能である。得られた変異に関しては、既知の変異との相補性試験と平行して遺伝学的なマッピングを行い、遺伝子の同定を行う。さらに2番染色体左腕、3番染色体両腕にもスクリーニングの対象を広げ、網羅的に遺伝子を同定することを目指す。
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