マウス精巣生殖細胞特異的遺伝子群を網羅的にクローニングし、包括的解析をすることで、生殖細胞の特徴を知ることを目的として研究を行った。 1.特異的遺伝子群のクローニングと構造の特徴:半数体精子細胞特異的遺伝子cDNAを85種類クローニングした。約半数は既知遺伝子と相同性を持たない新規遺伝子であた。既知遺伝子あるいは相同遺伝子は体細胞型に対する生殖細胞型アイソフォームが多かった。そのうち19個の遺伝子ゲノム構造を明らかにしたところ、約半数の9個はイントロンレス遺伝子であった。従って、精巣生殖細胞特異的遺伝子群は進化の過程で、体細胞型のイントロンを有する元の遺伝子から遺伝子重複で生じた以外にレトロポジションで出来た遺伝子が多いことが示唆された。今後、相同性を持たない新規遺伝子について遺伝子構造の解析を進める。 2.発現制御機構:プロモーターアッセイを体細胞由来培養細胞を用いて行ったところ、transientアッセイではプロモーター活性が見られ、stableでは活性は見られなかった。イントロンレス遺伝子の大部分は遺伝子内にCpGを多く持ち、発現していない体細胞ではメチル化されていて、発現している精巣ではメチル化されていなかった。これらの合わせて考えると、転写制御の生殖細胞特異性は上流領域のsic-element以外に遺伝子DNAのメチル化によるクロマチン構造変化が重要と予想された。精巣生殖細胞特異的なメチル化による転写抑制機構について研究を進める。 3.種間の保存性:これまでに解析した特異的遺伝子についてはほとんどヒトでオーソローグの存在が確認された。このことは、精巣生殖細胞特異的遺伝子群の多くはヒト・マウスが進化上分岐した8千万年前以前に体細胞型遺伝子から遺伝子重複あるいはレトロポジションにより生じた可能性が示唆された。今後さらに幅広い動物種について遺伝子の保存性を調べる。
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