本研究では、ほぼ完全にゲノム配列が決定された線虫C.elegansのRNA結合蛋白質遺伝子を検索・同定し、それらの発生分化過程における機能を網羅的に解明することをめざした。 線虫RNA結合蛋白質遺伝子の同定と、RNAi法による遺伝子発現抑制が誘起する表現型の解析系の確立を進めた。同定したRNA結合蛋白質遺伝子は172個あり、このうち約51%がスプライシング因子などによく見られるRRM型のRNA結合ドメインをもっている。次に多いのがKH型のドメインをもつもので、約14%を占める。このような多数の遺伝子について効率よくRNAi解析を行うために、従来のマイクロインジェクション法にかえて、soaking RNAi法を採用した。また、当面は個別にcDNAを分離することは避けて、遺伝研で作製されたyk cDNAクローンを利用し、主にRNAi後の致死性と発生分化段階の特別な表現型に着目して解析を進めた。これまでに解析した遺伝子総数は32個であり、顕著な表現型を示さなかったものが25個、胚致死表現型を示したものが5個、成長遅滞を示したものが1個あった。また、排出器官canalの形成不全を示すものを1個見いだした。さらに、比較的詳細に解析したSR蛋白質ファミリーについては、組合せによって合成致死や合成不稔の表現型を示した。この合成不稔の場合については、精子の形態異常を見いだすことができた。 現在国外で線虫染色体レベルの網羅的RNAi解析が進行していることを考慮し、今後はSR蛋白質遺伝子のように単独RNAiでは表現型を示さない遺伝子について、多重RNAi解析を重点的に進める必要があると考える。また、エピトープタグとの融合遺伝子を発現する線虫株の作製を進めて、その発現様式と結合RNA配列の解析を行い、単なる表現型解析にとどまらないデータベース構築を行う必要がある。
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