研究概要 |
<背景と目的>多細胞生物における組織形態形成や神経発生を理解するためには、細胞の形態変化や移動に伴う細胞骨格の制御機構を解析することが重要である。線虫などのモデル生物におけるゲノム解析の進展により、これまで困難であった、多重に存在する細胞骨格分子や制御分子の網羅的な解析が可能となってきた。本研究では、線虫及び培養細胞を用いて細胞骨格及び細胞骨格制御分子による細胞・組織の形態制御機構や神経発生機構を包括的に理解することを目的としている。 <検討結果>線虫の組織形態形成に関与する遺伝子(GEX2,GEX3,W07B3.2,UNC-33)について組織的に結合分子探索実験(yeast two hybrid法)、及び遺伝子破壊実験(RNAi法)を行った。現在までに、多数の結合分子を同定し、この中からさらに遺伝子破壊により形態形成に異常が認められる分子を同定している。私は本研究において、GEX-2,GEX-3,W07B3.2が複合体を形成し、細胞間接着部位において中間径フィラメントに作用して細胞移動や組織形成を制御しうることを見出した。一方で私は、線虫において神経発生に関与すると考えられているUNC-33の哺乳類相同遺伝子であるCRMP-2について培養神経細胞を用いた生化学的・細胞生物学的解析を行い、CRMP-2が神経軸索のガイダンスに関与していることを見出した。 <考察>以上の結果から、本法により組織形態形成や神経発生といった多数の分子の関わる複雑な現象を網羅的に取り扱うことが可能であることが示された。現在、組織特異的なRNAi法を開発中であり、今後、各組織毎にさらに詳細な解析が可能になると考えている。さらに、線虫における遺伝学的解析の結果と培養細胞系における生化学的、細胞生物学的解析の結果を互いにフィードバックすることにより、発生プログラムの重要なアウトプットである形態形成や神経発生のメカニズムが明らかになるものと期待される。
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