ホヤは脊索動物の基本的な体制を備えているが、細胞数が少なくゲノムの重複もないため、脊索動物のシンプルなモデル系と言える。ホヤ胚においては決定因子の分配と細胞間相互作用によって、のう胚期の前にほとんどの細胞の予定運命が1つに限定される。また細胞タイプ特異的遺伝子発現が始まるのも卵割期である。そこで、本研究ではカタユウレイボヤ卵割期のESTと網羅的in situ解析を行った。 今年度は、カタユウレイボヤ32〜110細胞期のEST解析を行った(配列決定、クラスタリング、ホモロジー検索は京大・佐藤矩行教授の研究室と遺伝研シークエンシングファシリティーのご協力を得た)。さらに、得られた1514の独立クローンのうち1065クローンについてホールマウントin situハイブリダイゼーションによって卵割期からのう胚までの発現パターンを解析した。解析続行中のため数値は未確定であるが、約8%のクローンが割球特異的に発現していた。それらのうち約40%が筋肉と神経索系統の、約30%が動物半球(表皮と神経系)の割球で発現していた。前者のタイプでは32細胞期から強い発現が見られ、母性mRNAであることが示唆された。32細胞期においてはそれらの割球の運命は決定されておらず、この時期に受ける誘導に応答してこれらの割球の娘細胞の一方が脊索・間充織の運命を選択する。したがって、これらのcDNAがコードするタンパク質は、誘導シグナルの細胞内伝達の抑制などを通じて筋肉・神経索などの運命決定に関与する可能性が考えられる。また少数であるが単一の細胞タイプ(筋肉など)に特異的な発現をするクローンがあった。それらの多くは新規の遺伝子であり発現開始時期も早いので、細胞運命決定メカニズムの解明に役立つと期待される。現在論文執筆中であり、ESTおよびin situデータはweb上で公開予定である。
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