グリコサミノグリカン(GAG)は二糖が繰り返し連続する、長く枝分かれのない構造を持ち、極めて多様な分子と相互作用することにより、様々な生物学的活性を示す。しかし、これらの糖鎖分子は遺伝子操作による分子生物学的解析、および遺伝学的解析が困難であることから、その生体内における機能に関しては未だ不明の部分が多い。本研究では、ショウジョウバエ機能獲得型変異体を糖鎖の異常によりスクリーニングすることにより、これら糖鎖の生合成・修飾に関与する遺伝子ネットワークの検索を試みた。GAGは塩酸加水分解法により、脱アセチル化された単糖へと分解される。したがって、GAL4/UASシステムの応用により、任意の遺伝子を過剰発現し、これら個体のアミノ糖(ガラクトサミン、グルコサミン)を測定した。野生型のショウジョウバエでは、ガラクトサミン/グルコサミンの比がほぼ1:1になることを利用し、機能獲得型変異体の糖鎖測定をおこない、その構成比から大きく外れているものを検索した。その結果、アミノ糖の構成比に明らかに異常を示す3つの系統を同定した。これらの系統について、Inverse-PCR法、RT-PCR法により過剰発現している遺伝子を特定化したところ、一つの系統ではタンパク質キナーゼC様の産物をコードすることが示唆された。糖鎖の生合成に直接関与する酵素群は数多く報告されているものの、広い意味で糖鎖合成に関与する遺伝子の報告は数少ない。近年、哺乳動物細胞を用いた系においてタンパク質キナーゼCが細胞のendocytosisを阻害することにより、プロテオグリカンの生合成に影響を及ぼす、との報告があり、本研究結果との関連性に興味が持たれる。
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