<背景と目的> 真核単細胞生物トリパノソーマ(Trypanosoma brucei brucei)では、同一シストロン上の遺伝子群の線虫オルソログ群がポリシストロニックな発現を外れたことにより、他の遺伝子産物との新たな相互作用などの新機能獲得したという仮説に基づき、まずT.bruceiのcDNAの網羅的検索を開始した。また多細胞化に当たり、単細胞生物の段階でどの段階まで遺伝子の準備がなされていたのかを明らかにするために、従来、多細胞生物特異的と考えられる神経系で発現している遺伝子の検索を行った。 <検討結果> (1)cDNAランダムシークエンス、TIGRデータベースゲノム情報のblastxサーチにより、約300のcDNAを検索し、新規遺伝子30個を同定した。このうち多細胞生物の神経系でしか見つかっていないphotoreceptor homologue(UNC-119 homologue)の全長をクローニングした。 (2)Differential Display法により血流型のlong slender form、short stumpy formと昆虫型で発現の異なる3-cDNA fragmentを44同定した。そのうちの一つのcDNAに関して全長を決定した。このcDNA(TCL)はcalpainに高い相同性を示し、TCLに高いホモロジーを有するものは、単細胞ではKinetoplastidaにしか見つからなかった。 (3)Pre-mRNAを誘導し同一シストロン上にあるcDNAをPCRで検索する条件を確立した。 <考察> 多細胞生物の神経系でしか見つかっていない遺伝子のホモログと推定されるcDNAを単細胞生物で初めて同定した。今後その機能解析を進めるとともに、さらに網羅的に新規cDNAの検索をランダムシークエンス等により進めていく。
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