研究概要 |
MHC領域は進化学的に保存されている遺伝子が数多く存在することやあらゆる生物種の塩基配列情報およびマッピング情報が豊富であることから、遺伝子の動態を追究するには最適な領域である。すなわち、MHC領域はヒトゲノムの形成機序を追究するためのモデル領域となりうる。我々はすでにヒトMHC領域2.2Mbおよびその相同領域の1つである1q22-23 CD1遺伝子群領域1,1 Mbのゲノムシークエンシングを完了したが、さらに機能的に高度に保存されている他種のMHC領域のゲノムシークエンシングを行い、比較解析することによりゲノム進化、形成の分子機構を解明することを試みている。具体的には、ナメクジウオ、ウズラ、ブタ、チンパンジーの各種MHCまたはMHC祖先領域を対象とした。その結果、これまでに合計900kb(ナメクジウオ:240kb、ウズラ:120kb、ブタ:160kb、チンパンジー:380kb)の塩基配列を決定した。特に、ナメクジウオのMHC祖先領域に存在する23個の遺伝子のうち、12個は、MHCまたはMHC相同領域に存在するparalogous遺伝子であることから、ナメクジウオはMHC領域の構造をよく保存していることがわかった。また、16個のチンパンジーのBACクローンを用いて作成した約1MbのMHCクラスI領域をカバーするクローンのうち、2個のBACクローンの塩基配列を決定した結果、欠失や挿入を除けば、ヒトMHC領域の構造と一致しており、ヒトゲノム塩基配列と98%の相同性が認められた。したがって、一般的にはヒトとチンパンジー間の相同性は平均98.4%と言われているが、多様性が蓄積されているMHC領域についてもほぼ同様な数値が得られたことになる。現在これらの生物種の他にラット、サメ、赤毛ザルのシークエンシングも進めている。さらに、これらの成果および他の研究所が決定したゲノム配列を統合したデータベース(M-integra)を構築中である。
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