高等脊椎動物の染色体バンド領域は、S期内の複製時期やGC%のMbレベルの区分構造に関係しており、遺伝子密度や発現様式を異にしたゲノムの機能ドメインと考えられるようになってきた。生物学的意味に富んだバンド領域と塩基配列とを直接的に関係づけ、統合的に理解することは、ゲノム研究の主要な課題の一つである。配列が解読されたヒト染色体を対象に、複製時期の高精度地図を作成し、GC%の解析と合わせて、ゲノム配列とバンド領域の統合的な理解をめざした。複製時期の測定法としては、ヒト培養細胞をブロモデオキシウリジンで標識した後、セルソーターを用いてS期を4分画した。各分画について、BrdU標識された新生鎖DNA断片を精製し、鋳型として用いて、着目のSTS部位について定量的PCRを行い、各S期分画についてバンドを定量した。解析を完了したヒト21番染色体において、複製時期の転換部位を9箇所塩基配列レベルで特定でき、GC%の変移部位との概略の一致をみた。この転換部位に、脳神経疾患やガンと関係した遺伝子類が存在するとの予想外の知見を得た。11番染色体の長腕全域の複製時期の測定も完了したが、この染色体においても複製時期の転換部位に、サイクリンD1を含む種々の疾患関係遺伝子が見い出された。複製時期の転換部位は、変異や組み換えが起こりやすい部位と考えられており、これらの領域に疾患関係遺伝子が存在することは興味深い。進化的には、複製時期の区分化が確立した後に、温血脊椎動物において、S期の早期に複製する領域がGCrichになり、GC%の巨大な区分構造が形成されたと推定されている。温血脊椎動物のバンド構造の分子レベルでの基盤である。比較ゲノム的な研究が興味深い。複製時期の転換部位やGC%の区分境界については、ゲノム配列レベルで限定でき、境界を特徴づけるシグナル群が存在する可能性が考えられる。
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