<背景と目的>喫煙は肺気腫の危険因子である。一部の喫煙者に肺気腫が発症することより、肺気腫発症の背景に遺伝因子の関与が考えられているが、日本では原因遺伝子は不明である。私たちは抗オキシダント作用を持つヘムオキシゲナーゼ-1の遺伝子発現を制御するGT反復配列を持つ割合が肺気腫で高い遺伝子多型性を明らかにした(Am.J.Hum.Genet.2000)。肺気腫発症の原因遺伝子としてのGT反復配列の遺伝子多型性の関与を強固にするため、本年度は以下の研究を行った。1)若年発症肺気腫と高齢発症肺気腫におけるGT反復配列の違いを検討する、2)オキシダントによる細胞傷害とGT反復配列数の関係を継代細胞で検討する。 <検討結果>末梢血DNAのGT反復配列数30回以上の長い反復回数を持つクラスLの割合は若年性肺気腫20例において通常肺気腫101例と同等の割合を示し、非肺気腫喫煙男性100例に比べて明らかに大きい値を示した。更に、末梢血白血球からlymphoblastoidcell line(LCL)細胞を作成し過酸化水素による細胞傷害性を測定すると、クラスLLを持つ細胞はクラスSS(S:GT反復数<25)をもつ細胞に比べて細胞傷害が強く現れ、GT反復配列と細胞傷害性の関係が示唆された。 <考察>若年発症の肺気腫においても非肺気腫喫煙者に比べてGT反復配列の長い割合が高い結果となった。しかし、高齢発症の肺気腫と若年発症の肺気腫との間には差が認められず、発症年齢に関係する他の要因の存在が示唆される。さらに、長いGT反復配列を持つLCL細胞を用いた実験で、過酸化水素による傷害性が強く発現した。私たちは長いGT反復配列を持つ細胞でのH0-1遺伝子発現の抑制を以前に報告したが、その結果から考えると、長いGT反復配列がオキシダントによるH0-1発現を抑制し、細胞傷害に対する防御機能を低下させることを示唆している。
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