研究概要 |
我々は、疾患モデルマウスの解析を通して、ヒトの肥満や糖尿病の成因・病態生理の解明をめざしている。そのひとつとして、肥満を伴うヒト2型糖尿病の良いモデルであるTSOD(Tsumura,Suzuki,Obese Diabetes)マウスの遺伝学的解析を行い、本マウスの肥満・糖尿病が、ともに多因子遺伝性で、それぞれ異なる遺伝子の組合せにより引き起こされていることを見出した。本研究は、コンジェニックマウスを用いた遺伝学的解析と、ゲノムリソースを有効に生かした候補遺伝子解析を併用して、TSODマウスにおける、1)量的形質遺伝子QTLs(quantitative trait locus)の実体の解明、2)複数の遺伝子異常がどのように肥満および耐糖能異常を引き起こすかの、病態モデルの呈示、を目的とする。我々は、第11、第2、第1染色体上に、血糖値、インスリン値、体重などに関するQTLsを見出しており、それぞれに関するコンジェニックマウスを確立した。これらコンジェニックマウスの表現型を計測し、親系統と比較することにより、単一遺伝子異常を反映した表現型を同定し、QTL遺伝子の生物学的作用や局在領域をさらに限定する。これまで予備的なデータであるが、第11染色体(Nidd4)のコンジェニックマウスについて血糖値、第2染色体(Nidd5)、第1染色体(Nidd6)のコンジェニックマウスについて体重が、TSODマウスに比し低い値を示すことを見出している。遺伝因子は同一でも、環境因子や分娩時の個体数などによって表現型のばらつきは予想以上にあり、ケージあたりの飼育数、分娩時の母親の年令等の因子をできるだけ同一にする努力をすることによって、表現型の違いを検知できるようになった。今後コンジェニックマウスの繁殖により、多数の個体の表現型の計測を行い、遺伝子の局在を限局させていきたい。
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