<背景と目的>心血管病は生活習慣病に含まれ、食事や喫煙などの生活習慣が発症に大きく関与する。しかしながら、同様の生活習慣をもつ個人が同じように発症するわけではなく、病態の個人差が極めて大きい。また、大規模臨床試験では多くの心血管薬による生命予後の改善が明らかとなったが、これらの治療薬による有効性は全症例の約30%程度であり、薬剤に有効性を示さない症例も多数存在する。これらの多様性の一因として遺伝的素因の違いが考えられる。すなわち心血管系を制御する遺伝子多型性により、同一の外的環境因子あるいは薬剤に対して個体が異なる反応性を示すと考えられる。従ってこれらの遺伝素因の違いを臨床像と対比して明らかにすることは、個々の患者の発症素因や予後、および薬剤による治療効果の推定に役立つ。このようなアプローチは、個人の遺伝的危険因子を同定し、個別の生活指導や薬剤選択を行うテーラーメイド医療の基盤となる。 <検討結果>東大病院循環器内科で心臓カテーテル検査を施行した全患者を対象に、臨床データの体系的なファイリングとゲノムサンプルの収集を平行しておこなった。平成12年度には700例のファイリングを完了、さらに進行中である。既報のSNPを全例で決定しデータベース化を行っている。本研究費でロシュ社製LightCyclerを導入、Melting curve法にて迅速な遺伝子型決定が可能となった。表に遺伝子解析の1例を示す。これは海外の報告で心筋梗塞のマーカーとして報告された多型であるが我々の解析では相関は否定された。 <考察> 表に示したように、海外で心筋梗塞と相関があるとされている遺伝子多型も本邦での検討では否定的な結論が得られることが多い。本邦独自のSNPデータベース構築が必要である。今後薬剤応答性、環境因子感受性などの臨床データを綿密に収集し、SNPと臨床情報との統合的解析を進める。
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