チトクロームP450(CYP)2A6は、喫煙や食事などにより摂取された癌原性化学物質の代謝的な活性化に関係するとともにニコチンの代謝にも関与すると考えられている。本研究では、日本人で初めて発見されたCYP2A6の全欠損型変異について、健常人集団での、CYP2A6の遺伝的多型と能動的喫煙習慣、受動喫煙歴との関連についての検討を行った。 愛知県がんセンター受診者のうち非癌と判定され、薬物代謝にかかわる遺伝子の多型解析の承諾が文書により得られた240人を対象とした。喫煙歴については、質問表より入手した。 CYP2A6の遺伝的多型のうち、CYP2A6^*1A(wild-type)、CYP2A6^*1B(conversion-type)、CYP2A6^*4C(deletion-type)についてPCR-RFLP法を用いた多型判定を行った。 対象集団の年齢は57±8歳、男性は119人、女性は121人であった。current smoker、ex smoker、never smokerの割合は各々24%、18%、58%であった。never smokerの割合は男性で28.6%であったのに対し、女性では86.8%であった。 CYP2A6全欠損型ホモは全体の3.3%であった。全欠損型ホモとそれ以外の多型に2分した場合、喫煙歴(性別により調整)と遺伝的多型は関連する傾向があった(p=0.055)。また、年齢(10歳階級)で調整した喫煙歴と遺伝的多型の関連は男性ではp=0.068、女性ではp=0.327であった。CYP2A6全欠損型変異をヘテロで有する集団においては、全く有さない集団と比べ喫煙開始年齢、一日あたりの喫煙本数ともに差はみられなかった。また非喫煙者において、家庭や職場での受動喫煙歴とCYP2A6多型の間には関連を認めなかった。 今後は、現在進行中の「非喫煙者における肺癌の症例対照研究」のデータを用い、肺癌発生リスクとCYP2A6遺伝的多型との関連、さらに受動喫煙、食事など生活習慣との相互作用の検討を行う予定である。
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